循環器疾患について

「動悸がする。さあ大変!」
 ドクン!ドクン!という心臓の鼓動を経験したことはありませんか。緊張したり、興奮したり、
運動した後などに、胸が脈を打つように感じたことは、おそらく誰でも何度かあると思います。
そうです、自分の心臓の拍動を自覚することを動悸といいます。

 ただし、動悸がするとそれがすべて病気かというと、決してそうではありません。先ほどの例
のように、緊張・興奮・運動などの生理的な変化による動悸もあるわけです。もちろんそのような
生理的な動悸は、心配する必要はありません。問題は、病的な動悸であるかどうかです。

 それでは、病的な動悸は一体どんな原因で起こるのでしょうか。大まかに分けると、心臓が原因
で起きているのか、心臓以外の原因で起きているのか、ということです。

 心臓が原因で起きる動悸には、不整脈・心臓弁膜症・先天性心疾患などがあり、心臓以外の原因
で起きる動悸には、貧血・発熱・甲状腺機能亢進症・慢性肺疾患・精神的要因などがあります。

日常の外来診療においても、「動悸がするのですが大丈夫でしょうか。」と言って来院される患者
さんが時々いますが、ほとんどの場合は精神的要因によるもので、これが案外多いものです。
医師が動悸の患者さんを診たときに、一番緊急に治療をする必要のあるものは、不整脈による動悸
ですから、まずこれを見極めなければなりません。

 次に、これの簡単な見分け方を説明しましょう。
 まず、動悸が起きた時は、とにかく安静にしてください。その後で、脈を見てください。
脈拍(一分間に脈の打つ数)はいくらか。これは一分間しっかり数えてください。そして脈と脈の
間隔は規則正しく打っているかどうか。脈の強弱があるかどうか。これだけ調べるだけで、ある程
度の診断の予測ができます。

 脈拍が100以上を頻脈60未満を徐脈と言います。
 動悸がするときの脈拍は、速いことが多いのですが、一つの目安として、
脈拍が45以下、140以上の時は、不整脈によることが多いです。また、脈と脈の間隔が不整な時や、
脈の強弱がある時も、不整脈によることがほとんどです。さらに詳しく聴けば、心電図をとらなく
ても不整脈の診断がついてしまうことさえあるのです。脈拍が百前後でも、規則正しい脈であるなら、
重大な不整脈であることはまずありませんので、それほど心配はいりません。

 ただ、いつ測っても脈拍が多いとき、また少ないときは、甲状腺の異常によることもありますので、
一度かかりつけの医師に診てもらってください。



 「不整脈について」

 心臓は、1日約10万回拍動し、 収縮と拡張をくり返しています。

 わかりやすく説明すると、心臓の中を電気の刺激のようなものが走り、 その刺激によって心臓が動いています。

 図のように、心臓の右心房(うしんぼう)の上部に、洞結節(どうけっせつ)Aと呼ばれるところがあり、最初の刺激がここから出ます。
 1分間に脈拍の数だけ60〜80回ぐらい規則正しく刺激が出ます。 その刺激は心房の中を通り、房室結節(ぼうしつけっせつ)B、ヒス束(そく)Cを通り、2つに分かれ右脚(うきゃく)Dと左脚(さきゃく)Eに伝わり、プルキンエ線維Fを通って、
最終的に心室の筋肉に達します。

 刺激された心室の筋肉は収縮し、ポンプの様な作用で全身に血液を送り出します。
この刺激が伝わる経路のことを刺激伝導系(しげきでんどうけい)といいます。

 不整脈は
1:拍動のリズムが、不規則になるもの(例えば、脈がとぶように感じたり、ドキンとしたりします)
2:拍動のリズムが、異常に速くなるもの(例えば、動悸がして脈がものすごく速く打ったりします)
3:拍動のリズムが、異常に遅くなるもの(例えば、身体がだるくなったり、頭がボーッとしたりします)

 の3つに大きく分けることができます。
 症状は、不整脈の種類によって違いますが、個人差があり、症状の出る人と出ない人があります。
また、症状の出ないものから、直ちに治療しないと、失神したり死亡したりするものまであります。

 不整脈の原因としては、狭心症、心筋梗塞、心筋症、先天性心疾患、心臓弁膜症、高血圧など、
心臓自身の病気、あるいは心臓に負担のかかる状態の時に起こりやすくなります。
甲状腺機能亢進症の時にも起こることがあります。また、原因不明のものもありますし、
健康な人にもみられることがあります。

 不整脈の誘因となるものは、次のようなものがあります。
・過労やストレス
・タバコの吸いすぎ
・アルコールの飲み過ぎ
・コーヒーの飲み過ぎ
・運動のやりすぎ
・睡眠不足
 不整脈の出る人は、注意して下さい。

 不整脈は、すべて治療の対象になるわけではありません。
治療の必要なものかどうか、不整脈の原因となる病気があるかどうかを調べることが大切です。


 「不整脈」〜期外収縮〜

 不整脈(ふせいみゃく)は心臓の拍動のリズムが乱れることをいいますが、

(1)拍動のリズムが不規則になるもの
(2)拍動のリズムが異常に速くなるもの
(3)拍動のリズムが異常に遅くなるもの

と、大きく分けることができます。
(「不整脈について」を参照してください)

 不整脈の症状はその種類によって違いますが、同じ不整脈でも症状の出る人と出ない人がいます。
また放置して心配ないものから、直ちに治療しないと失神したり死亡するものまであります。

 不整脈の中でも一番よく見られるのが、今回説明する「期外収縮(きがいしゅうしゅく)」
という不整脈です。いわゆる「脈がとぶ」という言葉で表現されるのが、この期外収縮です。

 心臓は刺激伝導系という経路を刺激が伝わることによって動いています。
 通常は、その一番はじめの刺激は右心房の上の方にある洞結節(どうけっせつ)というところ
から出ていますが、期外収縮の場合は、そのはじめの刺激が洞結節ではなく別のところから出ます。

その刺激がどこから出るかで、つまり心室から出るか、心室より上から出るかで2つのタイプに分れます。
またその刺激は通常の間隔より短い間隔で出ます。ですから脈がとんだように感じます。

 ・上室性期外収縮(刺激が心室より上のレベルで出るもの)


 ・心室性期外収縮(刺激が心室のどこかから出るもの)


 どちらの期外収縮も、その頻度が少しくらい多くても、それらがみんな単発(1個ずつ単独)で
出ていれば、よほど心配することはありません。

それが頻脈発作(上室性頻拍症・心房細動・心室性頻拍症・心室細動など)につながる
様なことがなければ、大きな問題にはならないからです。

 ただその原因または誘因となる心臓の病気があるかどうかを、一度チェックすることが必要
だと思います。

 期外収縮に関係する心臓の異常には次のようなものがあります。
心筋症・心臓弁膜症・狭心症・心筋梗塞とその後遺症・心不全などです。

検査方法としては
 ・心エコー(心臓超音波検査)
 ・ホルター心電図(24時間心電図検査)
 ・運動負荷心電図などがあります。

 これらの検査で大きな異常がなければ、あとは不整脈の出方次第ということになります。
心臓自体に先に述べたような異常がなくても期外収縮が出ることはあります。
また、過労・ストレス・睡眠不足・喫煙・アルコール・コーヒーの飲みすぎ・運動などが
誘因となることもあります。

 自覚症状があまりにも強い時はお薬を出す場合がありますが、
治療を必要としないことが多いです。
 ただ単なる期外収縮と思っても、その裏に重大な心疾患が隠れていることがありますので、
一度検査を受けることをお勧めします。


  「不整脈」 〜心房細動〜

 心房細動(しんぼうさいどう)は脈と脈の間隔が、バラバラになる不整脈です。
一度として規則正しく(同じ間隔で)脈が打つことはありません。

 心房細動になると少し動くだけでも、脈拍が非常に速くなったり、また逆に安静にしている時は、
脈が非常に遅くなったりしやすくなります。

正常な脈

心房細動


 心房細動の時は、脈拍の間隔がバラバラのために、心臓の収縮が1回ごとに強くなったり弱くなったりします。
そのため、脈の強弱が起こります。手首で脈を診ると強さが違うのがわかります。

 心房細動には普段は洞調律(どうちょうりつ)すなわち規則正しい脈拍で、発作的に(一時的に)
心房細動になる「発作性心房細動」
洞調律に戻ることのない「慢性心房細動」があります。
発作性心房細動もそれをくり返していると、やがて慢性心房細動になることが多いです。

 主な原因としては心臓弁膜症、心筋症、虚血性心疾患、高血圧、WPW症候群などの
心臓・循環器疾患の他、甲状腺機能亢進症などがあります。

 症状としては動悸、息切れ・呼吸困難、めまい・失神、多尿、胸部不快感などがありますが、
無症状の無症候性心房細動もあります。


 心房細動の場合の大きな問題点は2つあります。

 一つは、心不全や循環不全を誘発しやすいということです。
心不全による呼吸困難・浮腫・全身倦怠感などの症状が出たり、循環不全によるめまいや失神が
起こったりします。これを防ぐために脈拍を調節する治療を行います。

 もう一つは、塞栓症(特に脳塞栓症)です。
 これは最近では元巨人軍監督の長嶋茂雄さんのことで有名になりました。
 心房細動が起こると、左心房内に血栓ができやすくなり、それが塞栓となり心臓から脳動脈に
飛んで(流れてゆき)血管に詰まると、脳塞栓症を引き起こします。
脳塞栓症が多いですが、手足の動脈を詰めることもあります(末梢動脈塞栓症)。
これを防ぐために、血栓を予防するお薬をつかった治療を行います。

 心房細動は高齢になるほど多くなり、また塞栓症などの合併の危険性も高くなります。
症状のない人では知らない間に心房細動になっていたり、脳塞栓症を起こしてから心房細動が
わかることもあります。

 心房細動と診断された人は、定期的に心エコー(心臓超音波検査)やホルター心電図(24時間心電図)
などの検査を受け、状態に応じた治療を受ける必要があります。

 ご自分の脈拍を診て、気になる方は循環器専門の医師に診察を受けることをおおすすめします。